高齢者施設における新型コロナウイルス対応マニュアル

高齢者福祉施設のコロナ対策 活動報告

2020 年 3 月 16 日版
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高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対応指針
沖縄県立中部病院感染症内科
1. はじめに
2019 年 12 月に中国武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症は、世界各地へと感染が
広がっており、国内では指定感染症に指定され、様々な対策がとられているところです。国
内でも感染経路が明確でない感染例が報告されており、高齢者施設においても入所者や職員
における感染事例が報告されています。
とくに、新型コロナウイルス感染症は、高齢者において重症化するリスクが高いとされて
おり、入所者において疑われる患者を認めた段階から、適切な初期対応を行うことで、施設
内でのアウトブレイクを防止することが極めて重要です。
本指針は、現在までに明らかとなったエビデンス等を踏まえ、新型コロナウイルス感染症
が地域で流行している状況(表1)での、高齢者施設における対応について考え方を示した
ものです。ただし、それぞれの施設における医療資源や人員配置には違いがあると考えられ
ますので、あくまで本指針は目安としていただき、施設ごとの状況に応じて具体的な対応を
検討いただければと思います。
また、現時点(3 月 16 日現在)では、新型コロナウイルス感染症と診断された患者は、原
則として入院勧告とされています。しかし、地域における感染拡大を認めた場合には、軽症
者は自宅での療養が原則となるものと考えられます。本指針においては、このような対応を
踏まえた内容としています。
表1 新型コロナウイルス感染症が「地域で流行している状況」とする考え方
⚫ 施設が立地する都道府県もしくは市町村が、地域における流行を宣言している。
⚫ 施設が立地する市町村において、どこで感染したか分からない患者が複数認められ
ている。
2. 施設内に新型コロナウイルスを持ち込ませない
新型コロナウイルスは、施設外から持ち込まれます。具体的には、面会者、納入業者、職
員、医療機関を受診する入所者によって、ウイルスが持ち込まれることを想定する必要があります。

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1)面会中止および業者の制限
新型コロナウイルスの地域流行が認められているときは、原則として面会はすべて中止と
します。納入業者による物品の搬入なども玄関先で行います。どうしても立ち入る必要があ
るときは、玄関先でアルコールによる手指衛生を行ったうえで、トイレも含め共用の場所に
は立ち入らないように求めます。
なお、入所者の外出については、野外の散歩程度であれば制限する必要はありません。身
近な買い物についても可能ですが、施設に戻ったときの手指衛生を心がけるようにしてくだ
さい。
2)職員の健康管理と就業制限
職員についても、玄関先で手指衛生を行ってください。出勤時の検温と症状確認をして、
軽微であっても発熱や咳などの症状があれば休ませます。勤務中であっても症状を認めた時
点で、必ず休ませてください。
職員が、新型コロナウイルス感染症の患者と濃厚接触(表2)していることが判明したと
きは、最後に暴露した日(同居する家族であれば、その家族の症状を最後に認めた日)から
14 日間の就業制限が求められます。
あるいは、新型コロナウイルス感染症が疑われる患者(表3)と濃厚接触していることが
判明した場合にも、これに準じた対応が求められます。ただし、施設における人員確保が困
難な状況等では、この判断を柔軟にせざるを得ないことは考えられます。
一方、同居する家族に症状を認めていても、新型コロナウイルス感染症が疑われる患者に
該当しなければ、当該職員に就業制限をかける必要はありません。ただし、新型コロナウイ
ルス感染症ではないと言い切れるものではなく、最後に暴露した日(同居する家族の症状を
最後に認めた日)から 14 日間を厳密な観察期間とします。この期間はサージカルマスクを必
ず着用し、手指衛生も心がけながら業務にあたらせます。そして、勤務中でも症状を認めた
場合には、すぐに業務から外れなければなりません。
表2 新型コロナウイルス感染症における濃厚接触の考え方
⚫ 患者と同居している。
⚫ 患者と手の届く距離で数分間の会話をしたが、互いにマスクを着けていなかった。
⚫ 患者の身体、または分泌物や排泄物に直接接触し、直後に手指衛生を行わなかった。
⚫ 換気の悪い閉鎖された空間に患者と1時間以上一緒にいた。

⚫ 集団感染の発生が報告されている同じ場所と時間に1時間以上いた。
表3 新型コロナウイルス感染症が疑われる患者の考え方
⚫ 14日以内に表2に示す濃厚接触があり、発熱や咳などの症状を認めている。
⚫ 新型コロナウイルス感染症が地域で流行している状況にあり、発熱や咳などの症状
を認めてから4日以上が経過しているものの軽快しない。
3)定期受診の延長もしくは電話診療
入所者が医療機関を受診する際には、とくに感染予防を本人と支援者ともに注意する必要
があります。医療機関では、定期受診している慢性疾患の患者と発熱や咳などの症状がある
患者とが接触することがないように、空間的もしくは時間的に分離する工夫をしていること
があるので、あらかじめ電話をかける等して受診方法を確認してください。受診するにあた
っては、サージカルマスクを着用して、受診前後および院内の公共物を触れたあとの手指衛
生を心がけます。
なお、慢性疾患の状態によっては、患者数が増大している時期に医療機関を受診しなくて
よいように、長期処方を求めることも検討してください。また、電話による診療でファクシ
ミリ等による処方箋発行が受けられることがあります。かかりつけ医に相談してください。
3. 施設内で新型コロナウイルスの流行を疑うとき
地域で新型コロナウイルス感染症が流行している状況では、施設内で働く全ての職員は、
標準予防策を徹底するとともに、常にサージカルマスクを着用して業務にあたります。
そのうえで、毎日2回、全入所者と職員について発熱や咳などの症状の有無を確認します。
もし、ひとつのフロアにおいて複数の入所者や職員に症状を認めた場合には、新型コロナウ
イルス感染症が当該フロアで流行している可能性を疑います。さらに、これが複数のフロア
で認められる場合には、施設全体で流行している可能性を疑います。とくに、症状を認めて
いる入所者や職員の数が日ごとに増えている場合には、以下に述べる対策を緊急に開始する
必要があります。
1)症状のある入所者への対応
医師の診察を要するかの判断
原則として、かかりつけ医の事前指示もしくは電話相談により医師の診察を要するかを決定します。一般的には、体温が 37.5℃未満であり、咳や倦怠感などの症状も軽微であれば、
経過を見守ることも可能です。ただし、表 1 に示す新型コロナウイルス感染症を疑う状況で
は、かかりつけの医師等に速やかに相談するとともに、必要な検査等が受けられるかを確認
してください。
1日4回の状態確認を行って、症状が長引いている場合、呼吸苦を訴えている場合、意識
レベルの低下を認める場合、水分や食事がとれなくなっている場合など、重症化の兆候を疑
うときは、医療機関へ搬送する等の速やかな対応が求められます。
本人に求める感染対策
軽微であっても発熱や咳などの症状がある入所者には、できるだけ個室管理としてトイレ
も専用とします。部屋のドアは閉めておき、適宜、換気を行います。個室が確保できないと
きは、ベッド周囲のカーテンを閉める、他の入所者とのあいだに衝立を置くなどの飛沫感染
予防を徹底します。やむを得ず室外に出るときは、マスク着用と手指衛生の徹底を求めます。
食事については、個室内で介助することが原則です。個室における専用の入浴以外は中止
して、身体清拭とします。
使用したタオル等については、原則として他の入所者とは別に洗濯してください。どうし
ても一緒に洗う、もしくは共用する必要がある場合には、熱水で処理(80℃10 分間)もしく
は次亜塩素酸ナトリウム溶液(0.05~0.1%)に浸漬してから洗濯します。
ケアにあたる職員の感染対策
ケアにあたる職員は、サージカルマスクと手袋を必ず着用します。さらに、飛沫をあびる
可能性があるときは使い捨てエプロンとアイゴーグルを着用します。担当する職員について
は、できるだけ症状がある患者のみの対応とするなどして、症状のない入所者へのケアと業
務が交わることがないようにします。
なお、サージカルマスクは利用者ごとに交換する必要はありませんが、手袋とエプロンは
利用者ごとに交換してください。一方、アイゴーグルについては、当該職員専用としていれ
ば、再利用することができます。これら感染防護具が入手できないときは、表4を参考とし
て代用してください。
表4 感染防護具や消毒薬が入手できないとき
サージカルマスク
布やガーゼによるマスクで代用する。鼻までが覆えるように工夫す
ること。ただし、防御機能は低下しているため、できるだけサージカ2020 年 3 月 16 日版
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使い捨てエプロン ゴミ袋の底に1カ所と側面の2カ所に穴を開けて、レインコートの
ように被ることで代用できる。
アイゴーグル
透明なアクリル板を適切なサイズに切って眼鏡に張り付けることで
防御できる。
消毒用エタノール
台所用合成洗剤を 200 倍に薄めた液体(水 1L に洗剤 5mL を加える)
でウイルスを不活化できる。刺激があるため手指衛生には不適だが、
環境清掃に使用できる。
2)症状のない入所者への対応
本人に求める感染対策
発熱や咳などの症状がない入所者であっても、できるだけ個室で療養いただきます。個室
が確保できないときは、ベッド周囲のカーテンを閉める、他の入所者とのあいだに衝立を置
くなどの飛沫感染予防を行います。また、定期的な換気を行ってください。
食事についても、できるだけ個室内で行うことが望ましいですが、介助する人員が十分で
ない状況等においては、症状のない入所者に限って共用エリアでの食事介助も考えられます。
トイレを専用とする必要はありませんが、できるだけ指定されたトイレを使用するように
求めて、不特定多数が同一のトイレを使用することがないようにします。
入所者相互に交流するレクリエーション等は中止として、必要なリハビリテーション等は
個室内で実施します。ただし、一定の距離を空けたうえであれば、テレビを観るといったこ
とは可能と考えられます。入所者同士が直接触れ合ったり、近距離で会話することがないよ
うにしてください。
ケアにあたる職員の感染対策
ケアにあたる職員は、サージカルマスクと手袋を必ず着用します。さらに、飛沫をあびる
可能性があるときは使い捨てエプロンとアイゴーグルを着用します。
4)施設内の環境消毒
施設内で共用している手すり、ドアノブ等の高頻度接触表面について、アルコールや抗ウ
イルス作用のある消毒剤含有のクロスを用いて、1日3回以上の清掃・消毒を行います。
発熱や咳などの症状がある入所者の室内清掃など、とくに汚染が疑われる場所の環境清掃
を行うときは、手袋、サージカルマスク、ガウン、アイゴーグルを着用します。
以上
ルマスクを入手する。
手袋 素手であっても、ケア直後の丁寧な手洗いで感染は防御できる。

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